2010年02月08日
弊ブログではたいてい愚にもつかないことばかり書いておりますが、今回はいい話というか、ほろりと泣かせる内容ですよ。
「すれ違い」「偶然の出会い」「美人学生」「健気な動物」「届かない思い」「叶わなかった願い」……。こういった要素が入っている話に弱い方は、ハンカチのご用意をおすすめいたします。全ブログ読者が涙するエントリになることを確信して、これから書いていきます。
ただ今発売中の747号に掲載されている「三食見学ツアー」の取材に同行したときのことです。
サイクルサッカー日本代表の松田鋼さんに取材をさせていただいたわけですが、話をしていて松田さんが中学時代住んでいたところが僕の出身大学に近かったことが分かりました。

誌面では見せられなかった試合(形式の練習)の様子。

自転車の形。サドルがオフセットされてます。
「へー、じゃあ僕の姉ちゃんと同じ学校ですね」
松田さんのお姉さんも、近所にあるその大学に行ってらしたとのこと。のみならず学部も僕と同じ。そのうえ学年も一緒! だったらすごいですが、さすがにそれは違って、僕が2つ下でした。
その学部は3年になると教養とは別の場所にある校舎に通う仕組みだったし、ゼミ(“講座”と呼ばれてましたが)も違ったので、面識はまるでありません。
3年からの校舎の空撮(Google Mapより)。
「なつかしいなー。僕、中学生だったんだけど、遊びに行ったりしてましたよ。姉ちゃんは九官鳥を飼ってたんですよ、実験用に」
「行動学系の講座だったんですね。そういえば行動学の先生で、自分の講座の九官鳥を飼ってる女子生徒を自慢している人がいたなあー」
「あ、それ、多分姉ちゃんのことですよ」
「……えっ?」
松田さんのお姉さんは主席で卒業したほど優秀な学生だったそうで、中学生の松田さんの目から見ても教授に可愛がられているのが分かったそうです。
……という話を聞いて頭のどこかからどどどどと出てくる記憶。その話を、別の講座に行った自分が何故聞いたのか、どんな風に自慢していたのか、なぜ印象に残っていたのか……。
「ああっ! あの人か! ということはあの噂の美人学生!」
「……いや、え? なんで?……」
意気込んで聞いて松田さんを引かせてしまいました。
その話を僕が聞いたのは、教養から専門に上がるときに開かれた説明会でした。各講座の教授が、どういう内容の研究をしているかを学生に紹介し、勧誘する場です。
その先生は「音声/発声」の研究をする講座を持ってました。そこで、人間と異なる形状の器官で人間の発声を真似ることが出来る九官鳥を使った研究もしていたようです。
九官鳥(Wikipediaより)。
先生は、スライドなども使って熱心に分かりやすく説明してくれたことを覚えています(というか、思い出しました)。話し方も丁寧で、なんというか、流れるような名調子でした。しかし、研究についての話なのに「主役」がいるのです。それこそ松田さんのお姉さん。
——彼女は九官鳥を雛のころから可愛がり、もちろん手乗りとして育て、九官鳥を愛し、また愛されている様子は、誰が見ても心を打たれましたねえ……。研究室を明るく照らす、まさに太陽のような存在でしたよ、ええ——
こんな感じ。
「冬場には九官鳥も寒いんでしょうね、彼女のセーターの中に潜り込んで、胸元から顔を出してくるんです。それを見て『俺も九官鳥になりたいよ』、なあんてつぶやく男子生徒もいまして——」
というくだりは鮮明に覚えています(思い出しました)。
そしてついには、ノドを一時麻痺させる薬を注射されるという、他の九官鳥は嫌がるような実験も素直にさせるまでに懐かせたという話を感動的に話してくれました。
しかし、残念ながら先生の流暢な語りは僕をその講座に行こうという気持ちにさせず、
「あれ、なんやったんやろ?」
「まあ、その学生がよっぽど気に入っとったんやろなあ」
という会話を昼飯の時にさせただけでした。
「でも、俺らが3年になったらその人は卒業してるんやな。いっぺん見てみたかったなあ」
「そやな、見るだけは見たいな。会えへんかなあ」
「なんかチャンスあったらええねんけど……」
ぼんやりした話をして、それからもちろんお会いする機会はなく、卒業して今に至ります。
偶然に弟さんとお会いしましたが、あの先生の話を聞き流していたら「こういう偶然があった」ことにすら気づかなかったことでしょう。ぎりぎりで生じた偶然。
しかし、思い出してみて気づいたのですが、先生は「美人」という単語は使ってなかったようです。教授という立場、説明会という場で、それを言うことははばかられたのでしょう。しかし先生は、抜群のトークテクニックで、われわれ2年生(当時)の脳裏に先輩美人学生の姿を描かしめ、もやもやせしめたのです。
ちなみに、「姉ちゃん、そんな美人じゃないですよー」と笑いながら言う松田さんは、実に爽やかな男前でした。
……書いてみたら、あんまり泣くような感じになりませんでした。おかしいな。何が足りなかったのか?
ふと、締めくくりに、
「今思うと、あれが僕の初恋だったのかも知れません」
という万能の一文を付けて乗り切る誘惑に駆られましたが、さすがに実在の方を相手にふざけることは自粛いたしました。(一)